※これは、2019年6月から7月にかけてのイタリア旅行の振り返り記事です。
夜中に目が覚めた。
時計を見ると午前3時。
日本を出てアブダビとローマ経由でフィレンツェの空港に降り立ったのが昨日の11:00ごろ。しばらくは時差ボケでこんな時間に目が覚めるんだろうなあと思いながら窓を開けると、どこか遠くで犬の吠える声が聞こえた。
「あ、アルトゥーロがお仕事をしている」
アルトゥーロは、わたしが宿泊しているB&B「gnamognamo(にゃもにゃも)」に住んでいる大きな白い牧羊犬。
gnamognamo(にゃもにゃも)には、猫、ヤギ、羊、ニワトリ、ロバなどなどたくさんの動物たちが家族同然に住んでいる。昨日の午後、チェックインのあとでB&Bのオーナーさわこさんが、その動物家族たちを次々に紹介してくれた。
アルトゥーロはそのトップバッター。山の上とはいえ、強い日差しが照っているフィレンツェ。彼はB&Bの建物の前の日陰に大きな体を横たえてのんびりとお昼寝をしていたのだ。
大きくて、ふさふさで、優しい目をしている。さわこさんが名前を呼ぶと横になったままちらっと目を開けてまたお昼寝のつづきに入ってしまった。
「アルトゥーロはね、pastore maremmano(パストーレマレッマーノ)という種類の牧羊犬なの。夜になるとパトロールを始めて、狼とか狐とかイタチなんかがうちの動物たちを襲いにやって来ないように見張っているのよ。」
昼間さわこさんが話していた通り、深夜になって彼はお仕事を始めたようだった。
遠くでオンオン!と響くアルトゥーロの吠え声はしばらく続いていた。
山の中で狐を追いかけている彼の姿を想像しながらもう一度ベッドに入る。
低いその吠え声を聴いていると、わたしまで守ってもらっているようで、移動と久しぶりの外国でわずかに残っていた緊張もほどけていくようだった。
翌朝、目が覚めて外に出ると、もう彼は例のお気に入りの木陰で寝ていた。
朝食を運んでくれたさわこさんに
「昨夜アルトゥーロが本当に仕事をしていたよ」
と報告すると
「そうでしょう」
と笑う。
お散歩の時やごはんの時、彼の姿が見えないと、さわこさんは遠くのどこかに向けて
「アルトゥーーーーロ!」
と唄のように軽やかに呼びかける。
わたしは彼女がアルトゥーロを呼んでいる声と姿が大好きだった。
それは、本当に愛おしい家族を想っているバイブレーションに包まれている。
名前を呼ぶだけで「愛している」と伝えている。
こんな風に誰かの名前を呼ぶことって最近、なかったなあと我が身を振り返る。
アルトゥーロや他の動物家族たちを、彼女は一緒に暮らしている間、何千回、何万回と愛を込めて呼ぶのだろう。
体が楽器なら、声はそこから奏でられる響きだ。さわこさんの唄うような呼び声が、今もフィレンツェの山の上で動物や木々を包むように響いている。
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